Little Bird

小さな鳥の歌

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彼女はよく、昔からこの村にいるという美しい鳥の話をしてくれた。

「その鳥はとても小さくて、鳴き声もとても小さいからなかなか見つからない。でもじっと耳をすませたら、その鳥の居場所がわかるだろう。とても美しい鳥だよ」

そう言っていつも目を閉じた。「おまえたちも、いつもちゃんと耳をすませていなさい。村の音や、人の話をちゃんと聞きなさい。そうしたら、美しい鳥を見ることができるから」

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彼女がいつ生まれたのか、正確な日は誰も知らない。でも亡くなった日は村の全員が知っている。彼女は村のみんなのお母さんだった。

アフリカ大陸東部に位置するウガンダ。首都カンパラの雑踏をぬけ、バナナの木が茂る赤土の道をバスで5時間ほど北へ進むと、グルという町に着く。郊外にあるこの村には電気も水道もない。あるのは草むらと畑、いくつかの小さな家と大きな木々。

この20年のあいだに、長い内戦が終わり、誰かが亡くなったり、新しい命が生まれたりを何度か繰り返した。

彼女は毎日せっせと畑仕事をし、水をくみ、洗濯物をごしごしこすり、料理をして、たくさんの子どもたち、孫やひ孫たちを育てた。年月は流れ、みんなあっというまに彼女の背たけを越えた。

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暑い日でもひんやりと涼しい土壁の台所から、シュッ、シュッ、と音がする。大きな平たい石の上で、ゴマをすりつぶす音だ。彼女が作るオディー(ピーナッツとゴマのソース)やオクラのスープは、村のみんなの大好物だった。

料理の合間に、彼女はマンゴーの木の下に孫たちを集めて、村に伝わる昔話やひいおじいちゃんのことなど、いろんな話をした。でも、戦争の話はめったにしない。「戦争はもうたくさんだ」。いつも最後にそう言って口を閉ざしたのだった。

彼女は88歳で亡くなり、村は深い悲しみに包まれた。

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その後、村を訪ねた。赤道直下のウガンダでも雨季は少し寒い。分厚い雲が太陽を隠すと、遠くでゴロゴロと雷が鳴る。雨の午後、彼女が住んでいた家の軒下にパピルスで編んだゴザをしいて、みんなで熱いチャイ(紅茶)を飲んだ。

彼女がいないことが悲しいと言うと、「そこの墓地で眠ってるから悲しがることはない。ずっとこの村にいるんだ」とすぐそばの新しい墓を指差して「きっと天国で楽しくやってるさ」とみんなは明るく笑った。

そのあと、村の女性たちが作った料理を食べた。彼女のスープと同じ味がしてなつかしい気持ちになった。雨上がりの空を見上げると、小さな鳥が飛んでいくのが見えた。

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